IFC環境・社会・ガバナンス部
環境・社会開発アナリスト / Environmental and Social Development Analyst
ワシントン本部勤務
学部生時代にメキシコ市で社会調査をしていた時、一人の先住民族の女性が私にこう問いかけました。「あなたのような若い人たちに、私の人生についてこれまでもたくさん話してきたけれど、私の人生は何も変わっていないわ。何のために話を聞いているの?」当時の研究テーマはメキシコ市に流入する先住民の生活様式や貧困についてでしたが、人類学という学問に惹かれて学ぶことに必死であった22歳の私は、答えをうまく見つけることができませんでした。その時の彼女の問いかけがきっかけとなり、人類学的な研究手法を用いて社会構造を解き明かし社会問題への解決方法を提案していく、そんな仕事をしたいと心に誓いました。
まずは開発に関する知識や経験を身につけたいという想いから、大学卒業後は国際協力機構(JICA)に就職しました。仕事以外でも、休日には、様々な悩みを抱える在日ラテンアメリカ人へのスペイン語心理カウンセリングやコミュニティ通訳としてボランティア活動に参加し、交流を図ってきました。
結婚を機に、JICAを退職しアメリカへ移住しました。偶然にも、移住先のワシントンDCで米州開発銀行(IDB)のコンサルタントとして働く機会を得て、メキシコや中米地域における都市インフラ案件の立案や都市の計画策定の技術支援に携わりました。さらに、都市計画の分野では重点的に取り組まれていなかったジェンダー平等の視点の重要性を発信するため、先進的なジェンダー政策を推進する世界の複数の都市で実地調査をする機会にも恵まれました。調査内容をまとめて、ケーススタディとして出版するにあたり、スペイン語と英語での執筆から編集や製本の手配まで手がけたことは、私にとって大きな自信となりました。
(写真:ホンジュラスの首都で廃棄物の回収をして生計を立てる女性に話を聞く筆者)
IDBで担当したプロジェクトで、環境社会配慮(プロジェクトが環境や住民へ悪影響を及ぼさないよう適切に審査する部署)やジェンダー専門家と一緒に仕事をする機会がありました。その時、社会開発の専門家として人類学分野の理論や手法を活かしている職員にキャリアの可能性について様々なアドバイスをもらいました。これがきっかけとなり、IDBで働きながら、同じワシントンDCにあるアメリカン大学で応用人類学の修士を取得することを決断しました。世界銀行の奨学金支援を受け、開発人類学の理論や実践、開発とジェンダー、都市や地域政策に関わる様々な授業を履修しました。約3年間、学業と仕事を両立することは大変でしたが、授業で学んだ人類学の理論や調査方法をIDBでの業務に活用することができ、とても充実した日々を過ごしました。大学院を卒業する春に、IFCの環境・社会・ガバナンス部の募集要項を見つけて迷わず応募し、念願であった中南米チームに採用されました。
私が所属する部署は、企業が管理するべき環境・社会リスク項目についてパフォーマンス基準を掲げ、それに準じて企業が環境や社会に配慮して事業を展開するための支援をしています。例えば発電所や空港のような案件では、そのデザインやマネージメント方法によっては自然環境や生物多様性、労働者、地域住民の生活環境に負の影響を与える可能性があり、特に先住民族や女性などの社会的弱者へさらなる負の影響を及ぼす可能性があります。このようにリスクの大きい案件では、環境や社会それぞれの分野に特化した専門家が協力して一つの案件を審査します。
私の部署には生物多様性、住民移転計画やジェンダー暴力等の様々な分野に特化した専門職員が常駐しています。私は中南米チームの社会開発に特化した専門家として、電力、運輸交通、農業、製造業分野のプロジェクトにおける労働管理、生計回復、プロジェクト利害関係者との関係構築に関する主に社会面の審査やモニタリングを担当しています。プロジェクトが計画されている社会文化的な背景や投資先顧客の環境社会マネージメントについて膨大な資料を読み込み、聞き取り調査を行います。その分析結果やリスクを回避する手段について簡潔な文書としてまとめ、IFCのホームページに公開することは私たちの大切な仕事の一つです。また様々な専門家と日々知識の共有を行っており、彼らから新しく学ぶことが非常に多いです。
顧客企業に、環境社会パフォーマンス基準を使ってビジネスを進めることが長期的な利益につながることを理解してもらうため、ビジネスケースについて説明をし、効果的な環境社会マネージメントを支援することが、仕事の一番の面白さです。最近では、中米の企業、銀行や投資家向けにセミナーを開催し、環境社会パフォーマンス基準にジェンダーの視点を取り込むことの重要性について講演し、企業のジェンダー平等促進の取り組みについて参加者と議論をしました。また、審査やモニタリングの際に、住民に納得がいくまで話を聞き、リスクを最小限に留めるための行動計画を顧客に提案することは、まさに学生時代に自身が志したキャリア像に合致しています。
国際開発機関でのキャリアを目指すにあたり、自身の専門性や情熱を大事にする一方で、目の前に突然やって来た大きな波に乗るようにして、あらゆる可能性に柔軟に対応することはとても重要です。私自身は、アメリカへ移住する大きな決断をしてすぐ、IDBで働くというチャンスに恵まれました。そこで出会った人類学を開発の場で実践する職員との交流が、その後の私のキャリアを形作ることになりました。
IFCに入社して感じたことは、多様性および専門領域の広さです。金融、経済の専門家の他にもITや評価、環境や気候変動、ジェンダー等の多様な分野の専門家が活躍しています。募集要項を見て、求められている経験やスキルと自身の経験に一つでも重なるものがあれば、をれをどのように活かせるか分析することをお勧めします。また、関心のある分野で活躍する職員から話を聞き、専門家のバックグラウンドや実際の業務について学ぶことも良いと思います。
多くの日本人の皆さんは、我が国特有の人事異動というシステムのもとで様々な職種を経て、優れた適応力やマネージメント能力を身につけている方が多く、IFCのような国際機関で、様々なステークホルダーと調整しながらプロジェクトを進めていくにあたり、こうした力はとても強みとなります。まずは積極的に応募されることを強くお勧めします。